Xook k'iin(ショック・キン):ユカタンにおける年間天気予測

 農業従事者にとって一年の天候を事前に知ることは非常に重要である。焼畑農業(ミルパ)を行うユカタン半島の農民にとって、土地を耕す時期を慎重に選ぶことが求められてきた。なぜなら耕作時期を見誤ることは、収穫の失敗、すなわち生活の危機に直結していたからである。さらに、作物の植え替えを計画している場合も、気温や湿度、降雨量について事前に察知することが欠かせない。
 「科学的な」天気予報が発達するまで、ユカタンでは、xook k'iin(ショック・キン)と呼ばれる年間の天気予報を毎年一月に行っていたと伝えられている。現在もユカタン半島の農村では先スペイン期から伝わった方法だと考えられ、その伝統を残し、活用しようという試みが行われている。

 ショック・キンの仕組みは以下のようになる。
 予測は1月の31日間を使って行われる。31日ある日にちをそれぞれ、1日を1月、2日を2月、3日を3月というように割り振り、それぞれの日にちの天候が、その年の各月の天候に対応する。1月12日はその年の12月の気候を表す。1月13日からは、逆算方式になり、13日は12月、14日は11月、15日は10月と再び予測を行う、1月24日がもう一度1月の天候に対応している。
 次に25日から30日までの6日間は、1日を2か月分として占う。例えば、25日の午前12時から正午までを1月、正午から午後11時59分までを2月とする。26日は3月と4月、27日は5月と6月となる、最終的に30日は11月と12月の天候を示す。
 残る1月31日は大忙しである。この日は1時間をひと月と考える。午前12時から1月、午前1時からを2月、午後11時からを12月とする。正午以降は12月、11月、10月というように再び逆算する。
 このように、1月の間に、ひとつの月に対する予測を5回行うのが基本的な仕組みである。
 
 それでは何を観察することで気候を予測するのだろうか。それは、太陽、夜露、気温、風向きと強さ、鳥(xk'ook:ナイチンゲール、ch'ik'búul:ミゾハシカッコウ等)の鳴き声、セミなどの鳴き声や行動である。豚が特有のにおいを発することは雨の前兆であるとも言われている。これは誰にでもできる予測ではなく、気候や動植物の行動を読む知識が必要である。それは今まで世代を超えて受け継がれてきた。
 これまで人類は、雨雲のレーダーや気圧から行う天気予報が発達するまで、気温や湿度の変化、風向き、空の音、動物の特定の行動から、雨や嵐を予測してきた。ユカタン半島の農村にもこれらの知識は世代を通じて受け継がれてきたが、この数十年の間にその知識が大量に失われており、それを懸念するマヤ先住民農家や活動家は多い。

 今日では十分に天気予報が発達していることから、ショック・キンではなくて天気予報を確認すればよいという意見も十分に聞かれる。しかし、この伝統を守るべきだと考えている農家や活動家にもそれなりの理由がある。なぜかと言うと、広大な面積を有するユカタン州において発表される天気予報は極めて局地的なものである。時には地図にさえ記載されないほどの小さな村にとって、天気予報で発表される、メリダ市、バジャドリッド市をはじめとする大きな市町村の天気予報は全くあてはまらない。数十キロ、時には数キロ離れているというだけで大きく気候が変わるユカタンでは、各村落に特化した天気予報が必要なのである。
 ショック・キンに関しては非科学的という声もあるが、適切な天気予報の情報がない村落にとってそれは重要な指標であり、それゆえに伝統としての地位を確立してきたのだ。

 農業技術者で、マヤ先住民であり、記者でもある筆者の友人、ベルナルド・カアマル・イツァ氏は数年前から失われつつあるショック・キンの知識を再興させ、地球温暖化、気候変動などにも対応し得る、現代マヤ先住民村落の知識を構築すべきだと考え、ユカタン半島の農民からショック・キンにめぐる様々な知識を収集しその精度の向上、普及に努めている。


※ショック・キンはスペイン語ではCabañuela(年間天気予報)として理解されており、マヤ地域でなくとも、ペルーなど南米でも同様の天候予測方法が地域の「伝統」として用いられている。ユカタンでも先スペイン期から伝わる伝統だと信じられているが、その起源がどの地域、どの時代にあるかは未だ不明瞭である。しかしながら、これが自文化の伝統であると考えられている事実、農民にとって重要な習慣であり続けてきたことが重要なのである。

コメント

人気の投稿